殺してあげる
目の前で伏せる格好で私の腕に食いついている犬。
それをビデオにおさめる加穂留。
銃を調べているキクカワ。
全てが憎らしい。
こんなやつらとコンタクトを取った自分が……
一番怨めしい。憎らしい。
バカだと思った。
涙が一粒白い床に流れ落ちたとき、ビデオを持った手を下に向けて、真面目な顔をしてこっちを眺めている加穂留と、銃口を下に向けて目をまん丸くしているキクカワと目があった。
なに。
くそ。こんな自分に心底腹が立つ。
死ぬときなんて綺麗なものじゃない。
ぐちゃぐちゃになるんだ。
とくに、私のように自ら望んだ場合。
「キクカワ」
「はい」
加穂留はビデオを床に捨てるように落とし、代わりに手のひらを天井に向けた。
そこへ、迷うことなく銃を乗せたキクカワ。
「アイコサマ、それ、本気ですか?」
「本気?」
「いまのその気持ち、本心?」
「くそ…………」
「わかりました」
待って。
なに。
まさか。
「アイコサマ、さよなら。最期になるから教えます。
アイコサマのシニカタは本当は『破』でした。
棺に入ったまま、焼かれる予定だったんです。
焼却炉の中はお経がかかっていて、棺にくくりつけられたアイコサマは身動きひとつできない。
パチパチと木の焼ける音、火の音、耐えきれなくなった木は音をあげて破裂します。
バンバンバン!
その時に、腕がちぎられ、足が飛び散り、頭が焼却炉の天井まで飛び、中身が天井にはりつく。
打ち上げ花火のように頭蓋は割れて、真っ赤な血が花火のように広がる。
綺麗ですよ、とても。
それを、アイコサマは死にゆくまで体験できたんです」
聞いただけで、全身の毛穴が開き、下腹がうずいた。
「それをお見せできなくて、加穂留とっても残念」
銃を構え、私に狙いを定める。
赤いマークが私の左胸で止まる。
やめて。
やめて。
やめて。
恐怖に声が出ない。
恐怖を充分に味わえるようにそのまましばらくそのままで、
恐さになんともいえない獣のような声が自分の口から垂れ流される。
目の前の鏡には左胸からどくどくと血が流れている自分の姿が目に入る。
チャッと音がして、そっちを向くと、加穂留が笑顔で私の顔の前に銃口を向けている。
にっと不気味に口角が上がった加穂留の口元を見たのが、
私の最後の記憶となった。