殺してあげる

寝息をたてて眠るキクカワを横目に眺めていると、なぜだか無性に涙が出そうになる。

だから、

ぎゅっと目を閉じて、余計な感情を捨てた。


その直後、一通のメールが入った。


送信者は"あの人"


息を飲んだ。


「キクカワ」


低い声はいつも通りの私の声。仕事の時の私の声だ。

キクカワはそれを聞き逃さない。

何を考えているのかは分からないが、こいつは場の空気を読む。

素早く離れたキクカワはいつも通りの無表情に戻り、私の横で直立した。



「あいつからだよ」
「……なんて書いてあるんです?」
「今から読む」


このメールに全てがかかっている。
これがダメなら私たちはもう一度最初からやらなければならない。

お願い。これで終わって。

この悪夢から逃げ出したい。


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