殺してあげる

右足と右腕がなくなった。

悲鳴を上げ続けるが、意識はすでに離れている。

とめどなく血が流れ、自分の血が海水と一緒に口から入り、鉄の味と潮の味が混ざる。そこに時おり自分の肉の破片も入り込み、飲みこむ。


加穂留は相変わらず笑顔でカメラを回し続け、キクカワは魚を逆さまにして、内臓を無理矢理引きずり出していた。

船の周りにもサメはいて、落ちる内臓を待っている。



腹に鈍い痛みが走り、柔らかい肉は食いちぎられた。


助けてくれ。


と、叫び続けている声は止むことなく響き、食い破られた腹からは腸がだらしなく流れ、潮の流れに力なくなびく。


まだ動く左手と片方の足は、いまだに生きようともがき、さながら死にかけの魚のようだろう。




息を吸い込み肺に送る自然活動は死ぬまで続けられ、



最期の最後まで、本能で生きることを諦めない。



最後にサメが弄ぶようにして顔のすぐ横を通ったときに見た真っ白い目は、この世のものとは思えなかった。


< 77 / 204 >

この作品をシェア

pagetop