殺してあげる
加穂留に目をやり、最期の瞬間を待つ。
憎い。
この女が憎い。
殺したいほどに、憎い。
俺をこんな目に合わせたこの女を殺したい。
そう思ったとき、頭の中に加穂留が送ってきたあの気持ちの悪いメールが浮かんだ。
そして、中に書かれていたメッセージをみつけた。
書かれていた。本当に、書かれていた。
『海で死ぬ』
それを今さら知ったところでもう遅い。
腹に食いつかれたまま、海の中に引きずり込まれ、目に映るもの全てが真っ赤に変わり、
最後に吸って、肺に取り込んだ空気が、噛み潰された肺から小さな気泡となって漏れ、
小さな空気は血だらけの口から泡となって出て行き、ゆらゆらと海面に上がっていくのを薄れる意識の中で恨めしく追っていた。
あれが俺なら。
あれが俺なら。
あれが俺なら。
絶対に助かってる。
まだある腕を海面に向けて思いきり長く伸ばし、
手を大きく広げ、指で海水を掴みながら、暗くなっていく視界に言い知れぬ恐怖を抱きながら……………
頭上から降りてきた巨大なサメが口をあけ、幾重にもかさなった歯を剥き出しにした。
最期の最後まで意識はそこにあり、泣き叫ぶ声と交換に潰れた肺に海水が入り込み、
顔の真ん中にブジュっと音を立てて食らいついたその音が脳みそに響いたのと同時に、脳みそは頭蓋骨から飛び出し、
サメの口の中に溶けた。
それが最期の記憶となった。