今夜、きみの手に触れさせて
「製造業での工場勤務。建設の現場系。飲食関係。例えばこの中だったら、どうだ?」
前川はピクリとも動かずに質問を続ける。
「えーっと……。もう一回言って」
「今初めて考えるのか?」
と、前川は呆れたように言った。
「だって、中卒だと、どんな選択肢があるのか知らなかったし」
「なんで調べない?」
「調べ方わかんねーもん」
怒られるかと思ったけど、前川はオレの目を見て説明を続ける。マジのやつ。
「学校にもう少し詳しい資料もあるが、中卒だとやっぱ求人は少ないし、条件も悪いんだ。だけどな、家庭の事情で進学せずに就職する生徒も確かにいる」
「うん」
「オレはそういう生徒には、なるべく技術が身つく職を勧めている。学歴よりも経験や腕がものを言うような、職人とか料理人とかな」
「ああ、うん」