今夜、きみの手に触れさせて
「修業は厳しくてつらい。不真面目なやつは教えてなんかもらえないし、努力しなければ身にはつかない。根性もいる。
だけど、それに耐えて技術を身につけたなら、いつまでも学歴でくくられて損をすることはないんだ」
そこまで言うと、前川は言葉を切り、息をついた。
「お前にはそういう覚悟があるのか?」
「え?」
「やる気失くして中学校にも来れないお前に、そんな根性があるのか?」
「それは……」
「いいか、矢代。高校へ行くより働くことのほうがよっぽどしんどい。それが毎日毎日続くんだぞ?
朝から晩まで何十年も、その仕事に携わっていくんだ」
「う……ん」
気が遠くなる。
「それを『何でもいい』なんて、言うなよ、矢代」
前川は静かな目でオレを見る。
返す言葉なんてなかった。