今夜、きみの手に触れさせて


「電話で話したんだが、お前のお母さんは進学を望んでいるぞ。『高校だけはどうしても行かせたい』って、何度もお願いされた」


それから前川の声が少し優しくなる。




「就職希望の理由は、家計を助けたいからか?」


「別に、そーゆーんじゃない……。自立したいだけ」




「だったら、それを3年だけ先延ばしにしたらどうだ。高校を出れば就職の幅がグッと広がるし、条件もずいぶんよくなる。

せっかくお母さんもそう言ってくださってるんだから」


と推してくる。




「親は関係ねーよ。自分の人生だから自分で決める」


「だな。お前の人生だから、もう一度大切に考えてみなさい。

就職するにしても、進学するにしても、その後の何十年間をもっと具体的にな」


そう言うと、前川は自分のカバンの中から、書類を何枚か取り出した。




「お前が就職を希望してるとは知らなかったから、高校のパンフレットだ。今からがんばったら行けそうな学校を何校かチョイスしてきた」



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