今夜、きみの手に触れさせて


「なぁ」


と前川に聞いてみる。




「先生はヤになんないの? 何十年も働いててさー」


15年しか生きてないオレには、聞いただけでうんざりする年月だ。




「なるよっ」


意外にも前川は食い気味に言った。




「イヤになることなんて、しょっちゅうだ」


「へー、よくそれで続けられるな」


オレがそう言うと、前川は少しだけ目を細める。




「まー、ときどき、うれしいこともあるからな。

お前から『勉強みてくれ』なんて電話があったら、相当うれしいぞ」


なーんてな。




「へぇ……。変わってんなぁ」


オレがしみじみとつぶやいたら、頭をはたかれた。




イテ。


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