今夜、きみの手に触れさせて


気まずい……。




前川が帰ると、部屋は一瞬でいやな空気になった。


普段からほとんど口をきいてないから、ま、しゃーねーけど。




「お母さんのせいだよね」


テーブルの斜め向かいの席で、母親はか細い声でつぶやく。


「お母さんがダメな母親だから、こうなるんだよね」


「別に」


突き放すような声が出た。






「あてつけ……?」


うつむいた母親の声が震えている。


「純太が不登校になったのも、進学しないって言うのも、お母さんへのあてつけなんでしょ? 母親失格だもんね?」




「うっせーな、ちげーよっ」


涙声にイラッとして、怒鳴りつけていた。




「熱あるから、寝る」


席を立ち、歩き出した視界の端に、母親がテーブルに突っ伏して泣き出す姿が映った。


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