今夜、きみの手に触れさせて
「ど、どうしたの、純太」
薄暗がりの中、驚いて見開いた母親の目と、目が合った。
動けない。
「や、やだ……熱を測ろうとした……だけよ」
震える声。
「わ……かってる……」
かすれる声。
オレらはたぶんあの日の、同じ光景を思い起こしていた。
あの日――
兄貴の葬式の翌日、
小学生だったオレの首を絞めた母親のことを。
その母親の腹を何度もめちゃくちゃに蹴りあげて、難を逃れたオレのことを。
息子が死に、
一緒に死のうとした息子に拒絶され、
絶望した母が、そのままひとりで近所の川に身を投げたことを――。