今夜、きみの手に触れさせて
あ、矢代くん。
リビングの一番奥。
この前と同じ窓辺にもたれて、矢代くんが座っていた。
でもマンガは読んでなくて、たぶん音楽を聴いてる……の?
両耳からイヤホンの細いコードが垂れていた。
だから呼んでも聞こえなかったんだ。
それとも……眠っているのかな?
矢代くんは目を伏せて、じっと動かない。
キレイだな……。
片ひざを立てて、壁に体を預けている彼の姿は1枚のフォトみたいだった。
髪に太陽の光が宿る。
伏せたまつ毛、高い鼻……。
はっ、見とれてる場合じゃなかった。
か、帰ろう。
だって部屋には矢代くんひとり。
この状況だとわたしは、ただの不法侵入者だ。
急いで身をひるがえそうとしたその瞬間、
パチッと、矢代くんが目を開けた。