今夜、きみの手に触れさせて


そうして彼は、わたしが差し出しているペーパーバッグの折り口を開ける。


ほのかなレモンの香り……。




きれいな指がレモンボールを1個つまみ、パクッと口に入れた。




「うまっ」




目の前の矢代くんの顔が、いつかアイスを食べたときみたいな満面の笑顔になったから、


うれしくってジーンとした……。




すると、矢代くんはもう一個つまんで、今度はわたしの口の前に差し出す。


え?


こっ、これは……。




恥ずかしかったけど意を決して、口を開けると、

彼はなんでもないことのように、ドーナツをわたしの口の中へと、食べさせてくれた。


し、心臓が……破裂しそう。




「な、うまくね?」


ちょっと首を傾げてそう聞きながら、矢代くんはわたしの顔をのぞき込む。




わわ……。


優しい言い方にも、柔らかな表情にも


慣れてなくて、困る。


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