今夜、きみの手に触れさせて
神社からここまで走って来たのか、律ちゃんはまだ肩で息をしている。
その細い体を支えるようにして階段をあがった。
矢代くんの家に入ると、床に散乱しているレモンボールを見て、律ちゃんが目を丸くする。
「ああ、うん、ぶちまけちゃったの」
へへ、と作り笑いをしながら、そんな言い訳をした。
落ちているペーパーバッグをとり、サササッとレモンボールを拾っていく。
隅っこまで転がって汚れちゃったり、踏んづけられてつぶれちゃったり、もう食べられない。
持って帰って全部捨てるんだ。
「青依?」
律ちゃんが心配そうな声を出した。
「大丈夫。矢代くんにもちゃんと食べてもらえたよ。『うまっ』て言ってくれた」
「そう?」
うん。だからいいんだ……。