今夜、きみの手に触れさせて


神社からここまで走って来たのか、律ちゃんはまだ肩で息をしている。


その細い体を支えるようにして階段をあがった。




矢代くんの家に入ると、床に散乱しているレモンボールを見て、律ちゃんが目を丸くする。


「ああ、うん、ぶちまけちゃったの」


へへ、と作り笑いをしながら、そんな言い訳をした。




落ちているペーパーバッグをとり、サササッとレモンボールを拾っていく。


隅っこまで転がって汚れちゃったり、踏んづけられてつぶれちゃったり、もう食べられない。


持って帰って全部捨てるんだ。




「青依?」


律ちゃんが心配そうな声を出した。




「大丈夫。矢代くんにもちゃんと食べてもらえたよ。『うまっ』て言ってくれた」


「そう?」



うん。だからいいんだ……。


< 136 / 469 >

この作品をシェア

pagetop