今夜、きみの手に触れさせて
毎年八月のお盆の頃、わたしたちの町の神社では夏祭りが行われる。
「ちょ、ちょっと苦しいよ、お母さん」
わたしの帯を締めるお母さんの手に力が入る。
「だってゆるかったら、着崩れちゃって大変よ?」
水色の生地に白抜きで大振りの花々が咲いている柄。
帯は黄色。
小学生の頃着ていたのは子どもっぽいからって、この夏ねだって買ってもらった浴衣セット。
「はい、出来上がり!」
お母さんに背中を押されて、鏡の前に立った。
わ、いつもよりちょっとだけ大人っぽい。
やっぱ新調してよかったぁ……!
髪をアップにしてお団子にしたかったんだけど、短くて、あがらず。
それでも片方だけ髪を耳にかけて、大きな髪飾りを差すと、パッと華やかな雰囲気になった。
翔子ちゃんにもらったレモン色の花の髪飾り。
地味人間のわたしには、普段は気後れしてつけづらい大きさだけど、今日は特別。
これぐらいおしゃれしても笑われないよね。