今夜、きみの手に触れさせて
「なんだよ、ケンカでもした……?」
荒んだ言い方に、思わずそんな言葉が出た。
「北見のせいだ。北見のせいで、オレはあいつらに白い目で見られるようになったんだ」
呻くように一ノ瀬は言った。
「あいつら、あのケンカ以来、オレのぶざまな姿が頭を離れないんだとさ。
『弱いくせに大丈夫?』とか聞こえよがしに言ってきたり、ひそひそと陰口ばっか叩いてやがる」
よっぽど悔しいのか、一ノ瀬はオレを相手にぼやいてくる。
「そんなやつ、のしちまえばいーのに……。お前、北中で一番強いんだろ?」
オレはオレで、とりあえず一ノ瀬の攻撃が終わったらしいことにホッとしていた。
「殴ったよ。ムカつくし、本気で蹴散らしてやった。そーしたらオレ、完全に浮いちゃってんの」
ヘッと、一ノ瀬は自嘲するように笑う。
それから妙にさばさばとこう言った。
「いーんだ、オレ、どーせ転校するし」
「えっ」