今夜、きみの手に触れさせて
何も言わない一ノ瀬に、オレなりのはなむけの言葉をおくる。
「いんじゃない、転校。
困難には『立ち向かわない派』のオレは賛成だぜ。
そっちでいー仲間作れよ。一から始めりゃいーじゃん」
なーんてな。
「は? お前みたいなやつに言われたかねーし」
ム、こいつ、オレが引きこもりだと知ってんのか?
「でもまー、ヘンなやつだな、お前。
弱いくせに、案外立ち向かってきてたけどな」
なんて、一ノ瀬は初めて笑った。
月明かりが逆光になっていて、よくは見えなかったんだけど。
「じゃな」
「うん」
オレがうなずくと、一ノ瀬はそのまま帰っていった。