今夜、きみの手に触れさせて


「い、家にはメールしとくから大丈夫っ」


矢代くんが困った顔をするから、わたしがダダをこねてるみたいになる。


だけど、こんな矢代くん放って帰れるわけないよ。




戸惑ったようにわたしを見ていた目が、フッと柔らかな表情になった。


「ありがと」




そ、そんなふうに微笑まれると、どうしたらいいかわからない。


そのまま見つめられて、しどろもどろになる。




「ひ、人として、と、当然のことだし……。べ、別に、相手が矢代くんだからじゃ、ない……よ」


恥ずかしくて何言ってんだか、わけわかんない。




「そっか」


矢代くんはポツンとつぶやいた。


「真面目なのな」




う。『真面目イコールつまんない子』


公式を思い出して若干へこむ。


修吾くんが来るまでの間、痛くてつらそうな矢代くんの気を紛らわせてあげたいのに……。



こんなわたしに、できるのかな……?


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