今夜、きみの手に触れさせて
矢代くんがケガをしたあの月灯りの晩から3度目の朝を迎えた。
あんなにすごいことがあったのに、わたしは普段と変わらない毎日を送っている。
塾通いの日々。
でも心の中は完全に矢代くんに支配されていて、塾の授業中もよく先生から注意されていた。
ぼんやりと考え込んでしまうから。
だってわからない。
優しいキスも
『好きになってもいいの?』と聞いてくれたことも、
わたしにとってはうれしくて、心が震えて、
涙がこぼれるほどの出来事だったけど、
矢代くんにとって、あれは何だったのか、まるで自信が持てなかった。
だって順番が違うもん。
普通は、好きになって、告白して、つきあって、ふたりで想いをはぐくんでいって、
それからキス……。
なのにわたしたちは何も始まっていないのに、いきなりキスをしてしまった。
わたしは矢代くんを『好き』だったけど、
矢代くんはどういう気持ちでキスをしたのかな……?