今夜、きみの手に触れさせて


「兄貴がケータイ持ったのは、高校行ってからだったから」


小さな沈黙のあと、オレは言った。




「バイトして自分で毎月のケータイ代払ってたんだよ」


「……そっか」


ふたりはちょっと神妙な顔つきになった。




「オレさー小学生のとき、スイミングスクールに通ってただろ?」


修吾に話を向ける。


「あー、流行ったよな、あの頃。オレは空手とかぶってたから行かなかったけど、みんな送迎バスに乗ってプールに通ってたよな~」


「小2の終わりかな? 誘われて体験入学したら、オレ……すげー行きたくなっちまって、親に頼んだんだよね」



「『スイミング行きてー』って?」

「そーそー」


ヤスの言葉に、オレはうなずく。




「『月謝が高いし、お前続かないからダメだ』って、うちの母親、取り合ってくれなくてさ……。悔しくって毎日泣いてた」



「プ、純太が?」とヤス。

「泣き虫だったんだ、こいつ」と修吾。



「小2だぞ。誰だって泣き虫だろーが」


と言いながら、自分でも笑える。



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