今夜、きみの手に触れさせて


だけどな、
母さんはそんなオレを許している。


いや、初めから恨んでなんかいないか。


オレが母さんを恨んでいないように……。




ただ……


体に刻まれた感覚は消えない。

五感が記憶を呼び覚ます。




首に残る母の手の感触。
正気ではないうつろな瞳。
急変する恐ろしい母の形相。

声。息づかい。

呼吸ができなくなって悶絶する苦しさ。


思い切り蹴り上げた足先に、母の腹の柔らかな感触を、今も感じることができる。




母さんの手にも残ってるのか?

オレの首を絞めた感触が。




蘇る?


苦しむオレのうめき声が。

白目をむいて紫色になっていく息子の顔が……。




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