今夜、きみの手に触れさせて



「いーよ、別に」




「え?」


「もういーんだ」


「で、でも」


「もう……卒業しなきゃいけねーから」




戸惑ったように見あげる青依ちゃんの手から、するりとipodを取りあげた。




兄貴の形見。


メタルブルーのipod.。


兄貴が毎日聴いていた歌――。




うちはパソコンなんてねーから、いつも成宮くんが新しい歌を入れてくれてた。


だから、ふたりが逝っちまって、このipodの中の時間も止まった。


流行りの歌は、もう、ちょっとした懐メロになっていた。




兄貴のケータイは、事故のときに壊れてしまったけれど、こっちは兄貴の制服のポケットから出てきたんだ。


通学のときに、毎日聴いてたんだろーな。




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