今夜、きみの手に触れさせて
純太くんが学校に来てくれて本当にうれしかったけれど、それは同時に、そういうわたしを知られちゃうってことなんだ……。
みんなの中のわたし。
ドキドキとときめいていた気持ちが、急速にしぼんでいく。
がっかり……されちゃうね。
「お前、名前なに?」
小西くんの後ろ姿に、純太くんが声をかけた。
「え、小西紡……」
立ち止まって振り向き、驚いたようにつぶやく小西くん。
「つむぐ? どんな字?」
「イトヘンに方向のホウ」
「ふ~ん」
その字を思い浮かべているのか、少し間をおいて純太くんは片手をあげた。
「サンキュ」って。
『あっは、完全にロックオンされちゃったね、小西』
『はい、パシられ決定!って感じ』
後ろの声は楽しそう。
そうして純太くんは、窓際の前から3番目の席をゲットしたんだ。
そういえば純太くん、2年生のときもいつも窓際の席だった。
窓の外をぼんやり眺めていた姿を思い出す。
だけど今日の純太くんは、窓を背にして座り、教室中を見渡していた。