今夜、きみの手に触れさせて


大きめのひと口をスプーンにすくい、わたしは矢代くんの口の中へとアイスを運んだ。


そうっと、落とさないように……。




冷たいアイスにキレイな顔がキュッと目を閉じる。


「うまっ」とそれから、満面の笑顔になった。




プフ、子どもみたい。




「アイス、好き?」


そう聞くと、矢代くんは一回ツーとこっちを見た。


それから顔を前に戻して「うん」とうなずく。




「もっと食べる?」


と聞いてみると、今度は首を横に振る。




「もー満足」


そう言って、矢代くんは前を向いたまま笑ったんだ。






夕風が吹き、矢代くんのさらさらの髪をなびかせていく。


もう少しで陽が落ちる。


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