今夜、きみの手に触れさせて
「あー、名前なんだっけ?」
一歩行きかけて、矢代くんが止まる。
「月島青依」
「どんな字?」
「お月様の月に、島国の島。青色の青に、えっと……ニンベンにコロモだよ」
「ニンベンにコロモ、ね」
ゆっくりと繰り返す彼。
覚える気もないのに、聞いてくれる人。
「じゃあ」
「ん、またな」
柔らかな笑顔がほどける。
『また』はないのに、笑ってくれるんだ。
家までの道のり、
わたしはずっと矢代くんとのことを思い出していた。
左手に、繋がった感触がいつまでも消えなかったよ。