今夜、きみの手に触れさせて
「青依、大丈夫?」
律ちゃんが席まで来て声をかけてくれたけど、わたしはうつむいたまま返事をした。
「うん。だいじょぶ」
だって、今、律ちゃんの顔を見たら、絶対に泣いてしまう。
「あとでゆっくり聞くからね」
律ちゃんはわたしの肩に手を置き、耳元でそうささやくと、自分の席に戻っていった。
『や~だ~、矢代くんってやっぱ女好きなの?』
『ね~。でもこれ、マジで月島さんかなぁ?』
『ないよ~。ないない。おかしいって』
もう耳をふさいでしまいたかった。
そんなざわめきがシーンと静まり返ったのは、
純太くんが教室に姿を現したから。
今朝は修吾くんと一緒になったのか、ふたりして登校してきた。
何も知らない純太くんは、真っ直ぐに自分の席まで歩いていく。
クラスのみんなは遠巻きに眺めるだけで、誰も昨夜のことを問いただしたりはしなかった。
そのあと、すぐに担任の前川先生がやって来て、いつも通りSHRが始まる。