今夜、きみの手に触れさせて
「矢代、ちょっといいか?」
HRのあと、先生が純太くんを呼んだ。
呼んだわりに自分のほうが純太くんの席まで歩いていく。
「これ、お前か?」
先生はケータイをスイッと、純太くんの机の上に滑らせた。
純太くんは椅子に座ったまま、それを手に取り、じっと眺める。
「ブ、何これ」
「それはこっちのセリフだ」
先生が間延びした声を出した。
「朝から廊下でケータイ見て騒いでる生徒がいたから、没収して話聞いたんだけどな。
これはどー見たって、お前だよなぁ?」
「あー、まー」
「相手の子は? このクラスの女子だって話もあるんだが、」
みんながその会話に耳をそばだてている。
心臓がドクドクと音を立てていた。
どうしよう……。
「はぁ? 高校生だよ。2コ上の女」
スラッと、純太くんは答えた。
「つきあってんのか?」
「別に。オレ、めんどーだから特定の女作んない主義だし」
ケータイの画面に目を落としたまま、純太くんは言う。