今夜、きみの手に触れさせて
「もー帰りたいって、泣いたんだよ。オレといるのは苦しいって。青依ちゃんの当たり前と、オレの当たり前は全然ちがうって。
スゲー悲しそうに、あの子は泣いたんだ」
オレがボソボソと白状すると、ヤスはヘラッと笑った。
「そりゃラブホに連れ込まれそうになったら、翔子だってそーゆーよ」
「は?」
「それとも、もー連れ込んじゃったのか?」
ヤスがワケわかんないことを言う。
「え? 行ったんだろ、ラブホ」
「はぁ? 行くかよ、バカ」
オレが怒ると、今度はヤスがポカンと口を開けた。
それからズボンのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出して指で操作する。
「ほら、これ」
ヤスの手の中のスマホの画面には、昨夜のオレと青依ちゃんが写っていて、その後ろにラブホテルの入り口を彩る電飾の看板が光っていた。
「マジか……」
「じゃー純太、ホテルがあるって知らずに歩いてたのかよ」
無言でうなずくと、ヤスがブハッと笑いだした。