今夜、きみの手に触れさせて


小さな作業場から一段あがると居住スペースになっていて、そこに人が佇んでいる。


修吾のお母さんだ。




「おばちゃん、全然変わんないじゃん」


照れくさくなってそう言うと、おばちゃんはダダッと靴も履かずに作業場へ駆け下りてきた。


「まぁまぁまぁ、本当に久しぶり」


おばちゃんはオレの腕をつかみ、オレの胸をペチペチ叩く。


「純くん、大きくなって……」


めちゃくちゃ笑顔なのに、おばちゃんの目がみるみる涙で潤んでくる。


アハ、絶対泣くと思ってたんだ。




「修吾に用事?」


「じゃなくて、おばちゃんに用」


オレがそう答えると、おばちゃんは不思議そうにオレを見あげた。




「ちょっとヘコんでるから、おばちゃんのカレー食いに来た」


「まぁ、カレー? 作る作る! 食べてって」


「材料あんの? 買い行こっか?」


「いい、いい、あるある!」




おばちゃんはうれしそうにオレの手を取り、家の奥へと引っ張っていく。


修吾んちにあがるのは、三年ぶりだった。



< 414 / 469 >

この作品をシェア

pagetop