今夜、きみの手に触れさせて
「あのさー、母さん」
食器を洗う背中に声をかける。
「オレ……高校行っていい?」
今日言おうと決めていた。
「え」
振り返った母さんは、もう涙ぐんでいる。
「も、もちろんよ。その方がいいと思ってた。うれしいわ」
「まだ何をしたいかなんてわかんねーけど、中学で何もしなかった分、今度はがんばろうと思ってるから」
一応かしこまってそう言ったオレを見て、母さんは大きくうなずいてくれた。
先のことなんて、まだわかんねーけど、
高校で3年間がんばって、もしそのあとまた青依ちゃんと出会えたなら、
オレはあの子に、もっと違うことが言えるだろうか。
あの子を笑顔にする自信が持てるだろうか。
洗い物を終えた母さんが、タオルで手を拭く。
「ねぇ純太」
「ん?」
「さっきあんた、中学で何もしなかったって言ってたけど、まだ終わってないよ、純太の中学生活」
そう言って母さんは笑った。
そうだな、まだ半年近くある――。