今夜、きみの手に触れさせて
翌日――
教室で
座る主の来ない空席に、なぜか目が行く。
4月から教卓の真ん前の席は、ずっと空いたままだった。
どうせ来ないからって誰かが代わって、矢代くんの席はずっとあそこ。
「席、ちゃんとあるんだね」
何度もぼんやり見ていたからか、隣の席の律ちゃんが小声で囁いた。
「うん」
その席のことも、矢代くんが来ないことも、昨日までは気にも留めていなかったのに……。
「気になるの?」
「え」
「『なんてことなかった』のに?」
律ちゃんがいたずらっぽく、わたしの顔をのぞき込む。
そうそう、昨夜塾で会ったとき、わたしが律ちゃんにそう言ったんだった。
『コンビニデートどうだったの?』
って、ひじで突っつかれて、
『そんなんじゃないもん。アイス一緒に食べただけで、なんてことなかったよ』ってね。