今夜、きみの手に触れさせて


矢代くんは、ずぶ濡れの背中を少し横に向けて、隣の子としゃべっていた。


片手には缶コーヒー。


もう一方の手で濡れた前髪をあげて、後ろに撫でつけている。




その仕草も、髪型も、表情も、

さっきまでとは違って、なんだかひどく大人っぽい。




ドキドキが止まらなくて、困る……。


そのくせ目が離せないんだから……。




こっそり見つめていたら、視線を感じたのか、不意に矢代くんがこっちを向いた。わわわっ。




ドッキ―――ン!




目が合って、固まる。


う、動けない。


目をそらすことも、隠れることもできなくて、

ただ突っ立って、ボワッと赤面していくのみ。




そんなわたしを見て、矢代くんはキョトンとしていた。


そりゃそうだ。彼はわたしのことなんか忘れちゃってるに違いないから。




どうしよう。ヘンなやつだと思われる……。


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