今夜、きみの手に触れさせて
だけど、ずらりと並んだ全身びしょ濡れ軍団の中を、矢代くんにだけタオルを渡すワザなんて、やっぱわたしにはなかった。
あきらめて、そのまま自転車を停めた場所へ行こうとしたら、声をかけられる。
「青依ちゃ~ん!」
ヤスくんが駆けてきた。
学校でも、会うと声をかけてくれるようになっていたけど、名前呼びは初めてだな。
「ふふ、びしょ濡れだ」
「あはは、バカだろ?」
ちらりと矢代くんのほうを見たら、スイッとそっぽを向かれた気がした。
じゃなくて隣の子としゃべってるのか……。
「あの、これ、使って」
ヤスくんにタオルを渡した。
「おー、ありがと。青依ちゃん優しいね」
なんて、ヤスくんは大声で言う。
「どこ行くの?」
「塾なの」
「へー、がんばってるんだ」
「うん……」
「じゃあ、気をつけてな」
ヤスくんがにっこり笑って片手をあげた。
「うん。バイバイ」