軟派な王子様【完結】
私はなんだか不思議な気分に陥った。


ずっとずっと恋のかけらもなかった香織と私が、別々の道を歩もうとしていることがなんとなくわかった。


香織には好きな人がいて、その人のもとへ向かおうとしている。




でも私には誰も向かう人なんているはずもなく、意地を張って地面にぴったりと張り付いたまま、きっと香織を送り出すことになるんだろう。




なんだかそれが空しく思えてしまった。


「そっか…。」


私はなんて声をかけたらいいんだろう。




香織はこんなとき、私になんて声をかけるだろう。


そう考えたとき、素直に口から出てきた言葉は本当に短い一言だった。








「頑張れ。」










香織は微笑んで私をみた。

私はその顔に少しだけ安心した。


香織はずっと私の友達。


だから香織には幸せになってほしいし、香織が喜ぶことを私も一緒に喜びたい。


だから香織にはがんばって欲しい。


でも私はそれ以上香織に何もいえなかった。
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