*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
「消されたいのか?」
「まあ、こわいわっ、消されないうちに退散しましょう」
俺が横目でひと睨みすると、彼女は言葉とは裏腹に、どこか楽しそうに闇の中へと消えていった。
……まったく、俺としたことが。
深海で最も恐れられ、ポセイドンの次に強い魔力を持つという俺があんな人魚ひとりに振り回されるなんて……。
そう思うのに、振り回されるそれさえも楽しいと思えるのは、フランのせいだ。
俺はコートを羽織り、急いで地上に向かった。