*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
*嫌な予感*
「フラン、危ないから帰るぞ」
俺は大海原から顔を出し、おそらくはこの辺りにいるであろう人魚を探す。
外は夕日に照らされ、赤く染まっていた。
まるで、血のように赤いその風景が、俺を嫌な気分にさせてくる。
フランの身に何かあったのかと、不安にさせる。
俺ははやる気持ちを抑え、目を細めて彼女を捜す。
ポセイドンの力のおかげで、この辺りはあまり人通りが少なく、滅多に人間とは出くわさない。
だからすぐに人影を見つけることができた。
その光景を見た瞬間、俺の嫌な予感は的中した。
砂浜で、細身の人間ふたりの間にいるのは、人魚だ。
そしてその人魚は、虹色の鱗に海藻のように美しい髪と、白い肌。
見間違うはずもない。フランだ。
「こいつは珍しい。人魚だぜ?」
「いい金蔓(かねづる)になりそうだ」
「やだっ、はなしてっ!! クライド、クライドッ!!」