*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
それが、俺をどれほど怒らせるのかを知らない無知な人間は、勝ち誇った気分でいるらしい。
にやにやと薄気味悪い表情で俺を見ている。
「そうか、残念だ」
俺は右の手を胸の辺りまで上げると、指をひとつ、鳴らした。
すると、背後にあった海の水が帯状になり、ふたりの人間を円状にすっぽりと包み込んだ。
水に覆われた人間ふたりは口から大きな泡を吹き出し、ただ足をばたつかせてもがいている。
彼らは俺たちとは違い、水中では息ができない。
奴らはやがて力尽きるだろう。
いい気味だ。
フランを泣かせた罰だと知れ!
「やっ、ダメ!! クライド!! 殺したらポセイドンに怒られる!! クライドの立場がますます悪くなっちゃうっ!!」
フランはそう言うと、怒る俺に飛びかかり、意識を散漫にさせた。
おかげで俺が作り出した水は空気中に分散し、人間たちを解放させてしまった。