*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
「くっそ、化け物めっ!!」
いくらか大きく咳をした人間は、怒りをあらわにした。
ナイフを持っていたひとりが俺に向かって突進してくる。
フランにしがみつかれている俺は、体勢を整えることができず、かろうじて急所は外せたものの、脇腹に刃が掠った。
鋭い痛みが走る。
「クライド!!」
フランは俺の異変に気づき、倒れ込みそうになった俺を押し、海の中へと潜っていく……。
「ひっく、ひっく……。ごめんなさい。ごめんなさい、クライド」
刺された脇腹がヒリつく。
傷口を押さえながら、目を開けると、そこには、大きな目から涙を流すフランの顔があった。
どうやら俺は深海の奥深くに戻ってきたらしい。
「俺はどうってことない。お前は無事か?」
実際、刃は俺の脇腹をほんの少し掠った程度だ。
傷から流れる血もそこまでではない。
2、3日もすればすぐにかさぶたになる。