*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
彼女はどこからどう見ても、深海に住むような異形の者ではない。
れっきとした、ポセイドンの血筋を引く美しい人魚だ。
それなのに、なぜここへ来るのかというと……。
言うまでもない。俺がいるからだ。
「フラン、いい加減にしろ。ここへは来るなとそう言っているだろう!?」
「わあ、フランそうなの? お誕生日、おめでとうっ!!」
説教をする俺を無視して、彼女は腰に手を当て、誕生日を祝ってくれとそう言う。
フランはいつもこうだ。
とてつもないマイペースで、自分が決めたルールを破ることはない。
おかげで、彼女の周囲には迷惑がかかりっぱなしだろう。
それは見なくともわかる。
……はあ。
俺はひとつ、深いため息をついてから、口をひらいた。
「……おめでとう。それよりフラン、ここは危ないと何度も言っているだろう? またサメに襲われたらどうする?」