*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
「そんな傷なんか気にならないくらい、クライドのスッと伸びた鼻筋と、唇もすごく綺麗だから……」
輝くアクアマリンの瞳が汚らわしい俺を捕らえ、離さない。
その瞳は、いつだって俺を虜にする。
だが、俺はだめだ……。
俺はフランには相応しくない。
俺は小さく首を振り、フランから距離を置いた。
その瞬間、フランの表情が悲しみへと変化したのは、俺の見間違いだ。
憂いを見せた表情は消え、大きな目がよりいっそう大きくひらいていた。
おそらく、何か楽しいことでも考えついたのだろう。
「そうだ! ね、ねねね、一緒に人間の世界を見にいこうよ。
クライドなら人間に似ているし、怪しまれないでしょう?」
両の手のひらを合わせ、パチリと音を出すフラン。
……また、突拍子もないことを……。
俺はまた深いため息をついた。