*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
「なんでため息? だって、人間の世界って見たこともないものがたくさんあるんだよ? すっごく気になるっ!!」
フランが好奇心旺盛なことを少しでも忘れていた自分が情けない。
人魚は16歳になると、成人とみなされ、外の世界に出ることを許される。
そうして人魚は、人間のことを知り、自分の身を守る術を学んでいくのだ。
だが、フランは……まだ早いように思う。
出会ったひとを警戒せず、簡単に信じてしまうところが危なっかしい。
そこがフランのいいところでもあるのだが、今回に限ってはそれも裏目に出るだろう。
現に、仲間からは俺と会うことを反対されているはずなのに、サメから救ってやったというそれだけで、皆からの反対を押し切ってここまでやって来るのだ。
こんな状況の中で、もし、人間に出会ったなら……。
少しでも優しくされたなら……。おそらくフランのことだ。すぐに人間を信じてしまうことだろう。
フランはもう少し、せめてあと3年はポセイドンの膝元にいるべきだ。
「やめておけ。とろくさいお前のことだ。きっとすぐに人間たちに見つかるだろうから」