*深海の底で。~もうひとつの人魚姫~*
フランを心配しての俺の言葉は、だが、フランにとってはただの反論にすぎない。
先ほどまであった輝く瞳は消え、眉は垂れ下がる。
そして、その次には眉尻が上がり、顔は少しずつ赤みを帯びる。
「なんで、どうしてそういう言い方をするの?
クライドと同じ大人になったのに、私を子供扱いしてっ!!
クライドなんて……っ!!」
肩を怒らせ、そこまで言うと、フランは俺に背を向け、小さな気泡を美しい尻尾で作りながら去っていった。
「『大嫌い』とは言わないのね、あの子」
フランという嵐が去り、再び沈黙が周囲を包む中、俺の背後から、甲高い女性の声が話しかけてきた。
「誰かを傷つけることができないんだ」
「それが、大好きなクライドなら尚のことってやつ?」
楽しげにそう言う彼女は、俺のすぐ隣までやって来る。
体の長さは130センチはあるだろう。彼女は純白の美しい鱗を持つ、長細い魚だ。