憂鬱なソネット
寅吉は目をぱちくりさせて立ち止まった。





「………お見合いしてからどれだけ経ったと思ってるの?」





じろりと睨みつけながら低く訊ねると、寅吉は「うーん」と首を捻る。





「あれはまだ夏だったから………」




「ええ、そうよ」




「だから、一、二………」





のんびりと指折り数え始めた寅吉に、あたしの堪忍袋の緒がぶちっと切れた。






「三ヶ月よ、三ヶ月!」






あたしの叫び声を聞いて、なぜか寅吉はへらっと笑った。






「あやめさん、数えててくれたんだ」






あっけらかんとしたその発言に、あたしは思わず言葉に詰まる。




そして、わたわたと動揺する。






「なっ……ば、別に」





「嬉しいなぁ」






にこにこと言う寅吉の、あまりに素直すぎる態度。





毒気が抜かれてしまいそうになる。





でも、気を取り直して。






「…………なんで、一回も、連絡くれなかったのよ………」






ずうっと言いたかった言葉を、あたしはゆっくりと吐き出した。






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