憂鬱なソネット
「………もう、あたしのこと、忘れちゃったのかと」





「あやめさんっ!!」






唐突に叫んだ寅吉が、あたしの足下にひれ伏した。






そう――土下座だ。




寅吉お得意の、公開土下座!






散った銀杏の葉で出来た真っ黄色の絨毯に這いつくばる、汚れたボロ服の薄汚れた男……。






「本当にごめんなさい、あやめさん」






寅吉が深刻な声で謝ってきた。






「あやめさんに、そんなに寂しい思いをさせていたなんて………」






涙声で言われて、あたしは手を横に振って否定する。






「………いや別に寂しかったわけでは」






でも、寅吉は聞く耳を持たない。






「ただの言い訳だけど……あやめさん、聞いてくれますか」





「はぁ………」






寅吉はゆっくりと顔を上げた。






「お見合いの後あやめさんとお酒を飲んで、とても楽しくて。

だから、またすぐに会いたいと思ったんですけど」






「………けど、何よ」







寅吉は今にも泣き出しそうな悲愴な顔で、小さく呟いた。







「連絡方法が、分らなくて………」






「……………は?」







意味が分からずに眉をひそめてから、あたしは唐突に気がついた。





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