憂鬱なソネット
…………そうだ。




寅吉は電話を持っていないのだ。





というか電子機器全般ダメで、腕時計さえつけていないのだった。





それで、あたしたちは番号交換さえしなかった。





………だから連絡できなかったのか。






「でも、電話番号くらい、仲人さんに訊いたら分かるでしょ」






あたしが食い下がるように言うと、寅吉は「うん」と頷いた。






「教えてもらったんだけど……公衆電話が見つからなくて」






公衆電話………?




あ、そっか、寅吉は携帯もってないから。




きっと家電も持ってないだろうし。





だから電話したければ公衆電話使うしかないってことか。






「………確かに最近見なくなったね」






あたしが頷くと、寅吉は悲しそうに「そうなんだ」と言った。






「だから、公衆電話を探しに出たんだ」





「………は?」






ぽかんとするあたしに向かって、寅吉は真剣な顔で、公衆電話探しの旅の経緯を語った。






「――というわけで、どこを探しても見つからなくて……。


途方に暮れて銀杏の木を見上げていたら、あやめさんが偶然通りかかったものだから、俺、泣きそうだったよ」






ーーーつまり寅吉は、この三ヶ月間、公衆電話を探し続けていたわけだ。





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