憂鬱なソネット
すると、寅吉もへらりと頬を緩めた。





「あやめさんが、やっと笑ってくれた」





心から嬉しそうな顔でそんなことを言うから、むすっとしていた自分が申し訳なくなる。





「やっぱり笑顔が可愛いよ、あやめさん」




「…………そりゃどうも」






やばい、顔が熱い。



恥ずかしすぎるので、あたしは顔を背けて歩き出した。




寅吉がぱたぱたとついてくる。





「あやめさん」




「なによ」




「なんで逃げるの」




「別に逃げてるわけじゃ」




「じゃあ、こっち向いて」






それは無理。



こんな恥ずかしい顔、見られたくない!




あたしは火照る頬を隠そうと、くっと俯いた。




< 39 / 131 >

この作品をシェア

pagetop