憂鬱なソネット
すると、次の瞬間。





「あやめさん!」





寅吉の声にちらりと視線を上げたあたしは、気がつくと、銀杏の幹に背中を押しつけられていた。




寅吉はあたしの顔を挟むようにして、その幹に両手をついている。





「……………と、寅吉さん?」




「逃げないで」





寅吉が眉根を寄せて、低く呟く。



その顔は、やっぱり、近くで見ると意外と端正だ。




ーーーって、今それどころじゃない!!






「え、えーと………?

なんですかね、この状況は………?」





「やっと会えたのに、なんで逃げちゃうの、あやめさん」





「いえ別に逃げたわけでは」





「あやめさん!」





「ははははい!?」






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