この思いを迷宮に捧ぐ
懸案1
はびこる汚職の件
“これで世界は救われた”
ある朝、突如として部屋中に響いたかとに思われた声に、千砂(ちさ)は顔をしかめた。
ひび割れたような、男女も年齢も不詳のこの声は、数ヶ月前に耳にした「神」の声に間違いない。
すでに執務室で、鵞ペンをとって仕事を始めていた彼女にとって、その声は、耳障り以外の何者でもなかった。
そう思ってはいけないのだろうけれど。
千砂個人に限定して言うなら、この声にまつわる出来事に、複雑な思いを抱いているせいだろう。
前回、彼女が初めて聞いた神の声は、火・地・風・水の各国から代表者を集め、世界の終わりを防げという指示を出した。
世界の終わりを招くという、火の国の娘の、力の暴走を抑えろと。
それは、具体的には、千砂の姉の夫である水の国の皇太子に、その娘を嫁がせることだった。
今“世界が救われた”ということは、義兄とその女の子が、うまくまとまったと解釈していいのだろう。
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