この思いを迷宮に捧ぐ
「どこで反対派だと思った?俺、なんか変かな?」

どうしてもそれを不本意に思っているらしいのが見え見えで、千砂はとうとうくすくす笑い出した。

「言葉遣い」

「あ、ああ!俺、あんまり敬語とかわかってないから」

「みたいね?」

「ごめん。失礼だった」

「いいの」

まるで、幼馴染みたいだ、と千砂は思った。

子どもの頃の知り合いなら、こんなふうに気安く、言葉を口から出すことができるんじゃないか。

でも、子どもだったなら、私はこんなふうに自分を守ることなんかできなかった…。


「本当に?」

心配そうに、男が顔を覗き込んでいることに気がついて、千砂は慌てて距離をとった。

「ええ。刺客でないなら、どうしてそんなに怒ってたのかしら」

「おエライ方々が、観劇中に多少考え事してたって、もう気にならないんだけどね。でも君は、ずーっと考え事をし続けていただろう」

再びむっとしてそう言うから、思わず本音を漏らした。

「ごめんなさい。どうすれば国を掃除できるかと思案していたから」

そう正直に答えてみせると、男はすっと仮面が落ちたように、表情を消してしまった。

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