この思いを迷宮に捧ぐ
さらには、感情を動かされない相手でなければならない。

千砂は、頭の中の条件に、最後に小さくそう付け加えている。


もう恋もしない。

千砂にとっては、恋が最大の弱点になりうるのだと、身をもって知ってしまった。

相手を傷つけられるのではないかと言う恐怖。そして、それによって相手を実際に失う痛み。

それを考えただけで、身が竦む。

現実にその恐怖や痛みを味わうくらいならば、いっそ恋愛感情など抱くことのできないような男がいい。


ひそかにそう千砂は考えていた。



だから。

「俺、あんたの姉がよかったんだよね」

千砂はその一言で結婚を決めた。



「無礼な...!!」

坡瑠が青ざめて、見たことがないくらいに怒っていることはわかったが、千砂はくつくつと沸き上がる笑いを噛み殺す。

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