この思いを迷宮に捧ぐ
懸案8
対立候補が失踪した件
「黄生がいない?」
千砂は、そんなことは大したことでもないと思いながらも、坡留の様子に目を留めた。
慌てて駆けつけたらしく、微かに息切れすらしているのだ。
「なぜわざわざ報告を?」
呼吸を整えながら、坡留はまっすぐに千砂の目を見た。
「彩菜さんも姿を消したからです」
「……それって」
「はい。おそらく駆け落ちでしょう」
はー、と千砂は勝手にため息が漏れるのを止められない。
持っていたペンを放り出して、弟のことを思う。
「黄生は、彩菜さんのことを公にさえしてなかったと思うけど」
これまでの恋人と違って、宮殿内に連れ込んだり、一緒に人目の付くところに出歩いたりしたこともないはずだ。
それは、千砂には、黄生の気持ちの深さを物語っているようにも思われた。
「殿下もずいぶん慎重に隠していたようです。おそらく、彩菜さんにも身の危険が迫っていることに気が付いたのでしょう」
千砂は、そんなことは大したことでもないと思いながらも、坡留の様子に目を留めた。
慌てて駆けつけたらしく、微かに息切れすらしているのだ。
「なぜわざわざ報告を?」
呼吸を整えながら、坡留はまっすぐに千砂の目を見た。
「彩菜さんも姿を消したからです」
「……それって」
「はい。おそらく駆け落ちでしょう」
はー、と千砂は勝手にため息が漏れるのを止められない。
持っていたペンを放り出して、弟のことを思う。
「黄生は、彩菜さんのことを公にさえしてなかったと思うけど」
これまでの恋人と違って、宮殿内に連れ込んだり、一緒に人目の付くところに出歩いたりしたこともないはずだ。
それは、千砂には、黄生の気持ちの深さを物語っているようにも思われた。
「殿下もずいぶん慎重に隠していたようです。おそらく、彩菜さんにも身の危険が迫っていることに気が付いたのでしょう」